「もし、時間が逆に進んだら?」
「死者が墓から蘇り、人生を過去へと遡る世界だったら?」
フィリップ・K・ディックの 『逆まわりの世界』(Counter-Clock World, 1967年) は、まさにそんな奇想天外な設定を持つSF小説です。
本作は単なるタイムトラベルものではなく、「時間とは何か?」「生と死の意味とは?」 という哲学的なテーマを追求した、ディックらしいディストピアSFです。
今回は ネタバレあり で本作のあらすじ、登場人物、主要テーマを詳しく解説し、その魅力を紹介します!
目次
『逆まわりの世界』基本情報
- 原題:Counter-Clock World
- 著者:フィリップ・K・ディック
- 発表年:1967年
- ジャンル:SF、ディストピア、哲学小説
- 舞台:1998年の地球(時間が逆行する未来)
あらすじ(ネタバレあり)
1998年、時間が逆転し始めた世界
物語の舞台は 1998年の地球。
ある日、宇宙の物理法則が突然変化し、時間が逆行する「ホバート位相(Hobart Phase)」 が発生します。
この現象によって、人間は生まれるのではなく、死んだ者が蘇る世界 へと変わります。
- 墓から死者が復活し、若返りながら人生を遡る。
- 食事は口から出し、食べ物を逆に戻す。
- トイレでは排泄物を体内に吸収する。
- 赤ん坊になるまで時間が進み、その後「母親の胎内」に戻って消滅する。
この奇妙な世界で、人々は 蘇った死者を探し出して保護し、社会に復帰させることになる。
主人公セバスチャン・ヘルメス
物語の主人公セバスチャン・ヘルメスの仕事は、「墓から蘇った死者を発見し、社会復帰させること」です。
ある日、彼のもとに 「ある重要人物が復活する」 という情報が入る。
それは、A.L.カートライト という カリスマ的宗教指導者 で、かつて世界に大きな影響を与えた人物だった。
この復活を巡り、政府、宗教団体、ギャング などのさまざまな勢力が動き出す。
ヘルメスは、カートライトの復活をめぐる陰謀に巻き込まれていくことになる…。
カートライトを巡る陰謀
カートライトの復活は、世界にとって大きな意味を持っていた。
なぜなら、「逆まわりの世界」において、復活した人物は過去の記憶を持ったまま生きる からだ。
- 政府はカートライトの復活を阻止しようとする。
- 宗教団体は彼を救世主として崇拝する。
- ギャングたちは彼を利用しようと企む。
ヘルメスは、この混乱の中で カートライトを保護するべきか、それとも消滅させるべきか の選択を迫られる。
結末
最終的に、カートライトは 逆まわりの世界のルールに従い、どんどん若返っていく。
しかし、彼が若返るにつれ、彼の影響力も消えていく。
そして、ついには 赤ん坊となり、母親の胎内に戻って消滅する。
彼の死とともに、彼を巡る争いも終わりを迎える。
ヘルメスは、「この世界では、何もかもが逆行し、過去へと消えていく運命なのだ」 という事実を受け入れるしかなかった。
主要テーマと考察
「時間が逆に進む世界」
本作の最大の特徴は、「時間が逆行する」という設定 です。
通常、時間の流れは「過去→未来」ですが、この物語では 「未来→過去」 という形で進んでいきます。
- 死者が蘇るが、結局若返って消滅する
- 何かを創造しても、いずれ消滅する運命
この世界では、「人は未来に向かって生きる」のではなく、「過去に向かって戻る」ことになります。
これは、人間の存在意義を根底から揺るがす哲学的な問い となっています。
「死と生の意味」
- 普通の世界:人は生まれ、成長し、死んでいく。
- 逆まわりの世界:人は墓から蘇り、若返って母胎に戻る。
この逆転した構造は、「生と死の境界は本当にあるのか?」 という疑問を投げかけます。
また、「蘇った死者は過去の記憶を持っている」という設定は、輪廻転生や魂の存在 にも通じるテーマです。
政治・宗教・権力の腐敗
物語では、カートライトを巡って政府・宗教団体・ギャング が争います。これは、ディックが描く典型的な 「権力の腐敗と欺瞞」 を象徴しています。
- 政府は、都合の悪い人物を封じ込めようとする。
- 宗教団体は、復活したカリスマを利用しようとする。
- ギャングは、利益のためにカートライトを操ろうとする。
結局、世界はどんな状況になろうと、権力者たちは変わらない のです。
読みやすさとおすすめの翻訳
「ディックの作品は難しそう…」と思うかもしれませんが、『逆まわりの世界』は比較的シンプルなストーリー です。
ただし、時間逆行の概念に慣れるまでは少し戸惑うかもしれません。
📘 おすすめの新訳版(ハヤカワ文庫)
- 言葉が現代風でわかりやすい
- 逆行する世界のルールが理解しやすい
📚 こんな人におすすめ!
✅ 時間逆行の設定が好きな人
✅ ディストピアSFが好きな人
✅ 生と死の意味を考えたい人
✅ フィリップ・K・ディック作品に興味がある人
本作は 「時間とは何か?」「生きることの意味とは?」 を問う哲学的な作品です。
一度読めば、その世界観にハマること間違いなし!